
| 「橋姫」-1 | 不遇の八の宮 |
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特別の位におつきになるという噂がありましたが、 世の中からつれない扱いを受けられた末、見放された風でした。 北の方も大臣の娘でしたが、心細く悲しい事の多いなか、宮と仲の良いことを慰めとしておられました。 宮はする事もない慰めに子供が欲しいと思っていらした所、可愛らしい姫が二人続いてお生まれになりましたが、北の方は産後のひだちが悪く亡くなられてしまいました。 |
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| 「橋姫」-2 | 八の宮、姫君達を育てる |
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しかし御一人残されて、益々生きてゆけない思いでいらっしゃいました。 そして、格式のある身で一人、姫君達を育てるのも外聞の悪い事であり、前々からの出家の望みを遂げようとなさりましたが、姫君達が一人一人成人なさるお姿が可愛らしく申し分ないのをお慰めに年月を過ごされました。 |
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| 「橋姫」-3 | 姫君達の生長 |
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大君は優雅・上品で奥ゆかしく・賢そうで、尊い血筋のお姫様というお感じで、中の君はお顔が本当に愛らしく、こわい程でいらっしゃいました。 八の宮は、思うようにならないことが多く、お仕えしていた人達が次々にお暇をとってゆくなか、乳母までも妹君を見捨ててしまいましたので、お一人でお世話なさいました。 |
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| 「橋姫」-5 | 邸の荒廃 |
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八の宮は、季節ごとの花や紅葉も、北の方と一緒にご覧になられておりましたので、気の晴れる事も多くありましたが、今はお一人でますます淋しくなられました。 頼る所もないまま、仏の御飾りを熱心になさり、明けても暮れても勤行(読経)をなさいました。 |
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| 「橋姫」-6 | 八の宮、勤行に精進 |
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年月のたつにつれて俗事から遠ざかられ、心だけは聖僧(ひじり)になりきっていらっしゃいました。 周りの人々がお勧めする縁組みのお話も多くありましたが、「世間の者の様に今となって再婚など」と聞き入れられませんでした。 *聖僧 - 修行に専念し世間から離れている |
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| 「橋姫」-7 | 姫君達の人柄 |
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琴や琵琶などの弦楽器のお稽古や、碁を打ったり、偏つき(へんつき)などのほんのお遊びで二人の性格をご覧になると、大君(おおいきみ)は思慮深く落ち着いていらっしゃり、中の君(なかのきみ)はおっとりしてはにかんだ感じで、大層かわいらしいご様子でした。 姉妹それぞれにすぐれていらっしゃいました。 *偏つき - 漢字の偏だけでその文字を当てる遊び |
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| 「橋姫」-8 その1 |
八の宮、歌を詠む |
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しかし今は、雌雄(つがい)が離れず一緒にいることをうらやましくご覧になって、姫君達にお琴などをお教えでした。 お二人はとても美しくて、まだお小さいなりにかき鳴らす琴の音が、お見事に思われるので、八の宮は涙を浮かべて うち捨てて つがひさりにし 水鳥の :いつもつがいでいたものを見捨てて去った水鳥の雁、その雁の子は仮りのこの世にどうして残ったのか 嘆きのつきないことだ: と涙をぬぐわれました。 |
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| 「橋姫」-8 その2 |
八の宮、歌を詠む |
| 八の宮のお姿は、長年の勤行(ごんぎよう)でやせてほっそりしてしまわれましたが、かえって上品で優雅でした。
また、着なれてやわらかくなった直衣(のうし)を着て、姫君達のお世話をなさる姿は、たいそう気品があってご立派でした。 *直衣 - 貴族の普段着 |
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| 「橋姫」-9 その1 |
姫君達も歌を詠む |
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;母のいない身で、どうしてここまで大きくなったのかと思うにつけても、悲しい我が身の運命が思い知らされます: 大君のこの歌はさほど上手というのではありませんが、たいそう心を打つ物がありました。 中君の歌 *巣守(すもり) - 孵化(ふか)しないで巣に残っている卵 |
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| 「橋姫」-9 その2 |
姫君達も歌を詠む |
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八の宮は経を片手にお持ちになって、時には読み上げ、時には唱歌をなさり、大君には琵琶、中君には琴をお教えになりました。 まだお二人とも子供でしたが、いつも合奏しながらお稽古なさるので、大変結構に聞こえました。 *唱歌 - 楽器の譜を口で歌うこと。ここでは姫君達に琴を教えるため |
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| 「橋姫」-10 | 八の宮の現状 |
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高貴のお方の中でも、とても上品でおうような、女のような方でしたので、沢山あった先祖伝来の家宝など、どこへともなく無くなってしまいました。 なす事もない暇にまかせて楽士などのような優れた人を召して、風流ごとに熱中して成人されたので音楽にかけては大層すぐれていらっしゃいました。 |
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| 「橋姫」-11 | 八の宮の素性 |
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その後源氏の子孫の時代になってしまった世の中では、八の宮は源氏の弟でいらっしゃいましたが、交際もお出来になれず、ここ数年聖になりきってしまわれ、今はこれまでと一切の望みを捨ててしまわれました。 *冷泉院 - 源氏の異母弟。実は源氏と藤壺中宮との不義の子 |
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| 「橋姫」-12 その1 |
八の宮邸焼け、宇治に移る |
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京の中には適当なお邸が無く、宇治に風情のある山荘をお持ちでしたので、そこにお移りになりました。 一度お捨てになった世間ですが、もうこれきりと京を離れて住むかと思うと、とても寂しくお思いでした。 花・紅葉・水の流れに心を慰め、 いよいよ物思いをなさり、亡き北の方がいらっしゃったらと、お思いなさらない時はありませんでした。 *北の方 - 妻 |
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| 「橋姫」-12 その2 |
八の宮邸焼け、宇治に移る |
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:連れ添った妻も長らく住んだ邸も煙となってしまったのに、なぜ私だけ命が消えもせず生き残っているのだろう、生きている甲斐もない: と亡き妻を恋いこがれていらっしゃいました。 |
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| 「橋姫」-13 その1 |
八の宮、宇治山の阿闍梨と交際する |
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宇治に、学問に優れ世評も良いが、めったに公式の行事に出仕せず、こもり住んでいた、聖めいた阿闍梨(あざり)が住んでおりました。 八の宮が近くに住まれて、寺にお布施をなさり、経文の勉強をなさるので、阿闍梨は八の宮をお敬いしました。 |
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| 「橋姫」-13 その2 |
八の宮、宇治山の阿闍梨と交際する |
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宮は 阿闍梨 - 僧職の名 |
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| 「橋姫」-14 その1 |
阿闍梨、冷泉院や薫に八の宮のことを伝える |
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いつものように冷泉院が教典などご覧になった後、阿闍梨は |
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| 「橋姫」-14 その2 |
阿闍梨、冷泉院や薫に八の宮のことを伝える |
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薫も、この世は本当になんの意味も無いものとよく解っていながら勤行(ごんぎょう)など人目にたつほどはせず、むざむざ日を過ごしてきた、出家せず心だけ聖になっておられるお心の持ち方はどのようかと、耳をそばだててお聞きでした。 阿闍梨は |
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| 「橋姫」-15 | 冷泉院、姫君達に関心を持つ |
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この冷泉院は桐壺院の第十皇子で八の宮の弟でいらっしゃいました。 |
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| 「橋姫」-16 | 薫、八の宮にひかれる |
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阿闍梨が山に帰る時にも |
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| 「橋姫」-17 その1 |
冷泉院、八の宮と贈答 |
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:俗世を嫌う気持ちは宇治山に通いますが、このようにお伺いできないのは、あなたが八重に重なる雲で間を隔てているからでしょうか: 阿闍梨(あざり)は、冷泉院(れいぜいいん)のこの文のお使いのお供をして、八の宮邸に参上しました。 |
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| 「橋姫」-17 その2 |
冷泉院、八の宮と贈答 |
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(八の宮) :俗世を捨てて悟りすましているわけではありませんが、世を憂きものと思い宇治山に一時住んでいるのです: と御返歌されました。 |
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| 「橋姫」-18 | 阿闍梨、薫の言葉を伝える |
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また薫の *法文 - 経・論など仏法を説いた文章 |
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| 「橋姫」-19 | 八の宮、薫と手紙を交わす |
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*皇太子に立つ争いに破れてから次々と辛い目にあった事 |
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| 「橋姫」-20 | 薫、宇治を訪れる |
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その山荘は、ごうごうとした流れの音や波の響きに、夜など安らかに夢を見ることもできない程川風が激しく吹きまくっており、薫は 仏間との間は障子だけで隔てにしてお住まいらしく、世間の色好みの男達のように薫もどんな姫かおつき合いしてみたいとお思いでした。 |
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| 「橋姫」-21 | 薫、八の宮を敬う |
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八の宮は、俗の身での修行ながら、山里で行う深い悟りの心境や、経典等知ったかぶりをせず、とても解りやすく薫にお教えされました。 高貴の方は物事の道理を会得なさるといった面で、格別に優れていらっしゃるので、薫は公務多忙で宇治を訪れずに日が経つ時は八の宮を恋しく思われました。
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| 「橋姫」-22 | 冷泉院も八の宮に好意を寄せる |
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また何かの事につけて、冷泉院がお見舞い申し上げなさることも大したことで、薫も、風雅なことにも日常のことにもしかるべき事にかこつけて、心を配りご用をお勤めなさり、三年程になりました。 |
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| 「橋姫」-23 | 晩秋に薫、宇治を訪れる |
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姫君達は大変心細く、所在なく寂しく、物思いに沈んでいらっしゃいました。 薫は久しく宇治を訪れていないとお思いのままに、夜深く有明の月がさしでる頃にご出発なさって誰にも知られないように、お供の物も少なく目立たぬようにして宇治へ行かれました。 *お念仏 - 僧に阿弥陀経を読経させ念仏させること |
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| 「橋姫」-24 その1 |
宇治への道 |
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この様なお忍びの外出などめったになさらぬお気持ちには、心細くも物珍しくもお思いでした。
:山から吹き下ろす風にこらえきれずに落ちる木の葉の露よりも、むやみやたらにこぼれる私の涙であることよ: |
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| 「橋姫」-24 その2 |
宇治への道 |
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小さな水の流れを踏みつけて行く馬の足音も、やはり静かにと気をつけていらっしゃるのに、紛れもない薫ご自身の芳香が、風につれて漂い、一体どなたの香りであろうかと、目を覚ます家々がありました。 *随身 - 朝廷から護衛として賜る官人。薫は中将なので四人。 |
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| 「橋姫」-25 | 薫、琴の音に気づく |
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薫は、八の宮の琴の音は評判であるがまだ聞けないでいる、良い折であろう、と思って邸内にお入りになると琵琶の音の響きでした。 場所柄のせいか初めて聞くような気がし、掻き返す撥(ばち)の音も澄んだ感じで風情がありました。 箏の琴(そうのこと)は胸に浸みいるような優雅な音色でとぎれとぎれに聞こえました。 *箏の琴 - 13絃の琴 |
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| 「橋姫」-26 その1 |
宿直人、薫を案内する |
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薫が |
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| 「橋姫」-26 その2 |
宿直人、薫を案内する |
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宿直人(とのいびと)は竹の透垣(すいがい)を立て廻らして、すっかり別の囲いなのを教えてお連れ申しました。 *宿直人 - 夜の泊まり番の人 |
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| 「橋姫」-27 | 薫、姫君達を垣間見る |
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中の君が柱に少し隠れて座って、琵琶を前に撥を手に座っていらっしゃいました。お顔はとても可愛らしく色艶も美しい人らしくみえました。 琴に身をもたせかけている大君は又一段と落ち着きがあり優雅でいらっしゃいました。 まるでよそながら想像していたのとは違い、とても優しくしみじみとした風情があり素晴らしく、どうやら姫君達に心が移っていきそうだと薫はお思いでした。 |
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| 「橋姫」-28 | 姫君達身を隠す |
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あわてた風ではなくゆったりと穏やかな物腰で、そっと身を隠した姫君達のご様子は、衣擦れ(きぬずれ)の音もせずおいたわしい感じで、しかも大層上品で優雅でいらっしゃり、薫は愛しいとお思いでした。 *衣擦れの音もせず - 着古して糊の落ちた衣装 |
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| 「橋姫」-29 | 薫、姫君達に挨拶 |
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姫君達は姿形まで見られたとは思われず、琴の音を聞かれたのではないかと、また不思議にいい匂いのする風が吹いてきたのを、予想もしない折なので気づかなかった事を、心も乱れて恥ずかしがっていらっしゃいました。 薫は御簾の前に膝まづき |
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| 「橋姫」-30 | 薫、大君と語る |
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薫が |
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| 「橋姫」-31 | 老女、薫に挨拶 |
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老女が几帳の端から見ると狩衣姿の薫が見え、不思議な芳香が満ちておりました。 |
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| 「橋姫」-32 | 老女、薫に語る |
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薫は年を取った人は涙もろいものと聞いてらっしゃいましたが、こう悲しんでいるのもおかしいと思われて |
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| 「橋姫」-33 その1 |
老女、昔を語る |
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*権大納言の君 - 柏木のこと |
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| 「橋姫」-33 その2 |
老女、昔を語る |
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| 「橋姫」-34 | 薫、弁と再会の約束 |
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しかし、突然昔話に関わって夜を明かすのもぶしつけな事と思われ *薫は女三の宮(源氏の妻)と柏木との不義の子 |
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| 「橋姫」-35 その1 |
薫、大君と歌の贈答 |
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:明け方の霧で帰る路も見えず尋ねてきました槇の尾山(まきのをやま)は霧が立ちこめています。心細いことです: と薫は帰りかけて引き返し、霧に閉じこめられた心細さを訴えました。 この去りがてら佇んでいるご様子は、都の見慣れている人々でも格別すばらしいと申し上げる程でした。 |
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「橋姫」-35 |
薫、大君と歌の贈答 |
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御返歌は少しため息をついていらっしゃるご様子で深く胸に迫ってくるものがありました。 |
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| 「橋姫」-36 | 薫、物思い |
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粗末な舟に柴を刈って積み、何という事もない家業のために、宇治川を往来している舟の姿が危なっかしい急流に浮いているのは、誰も皆考えてみれば同じ様なこの世の無常の姿である。 自分は水の上に浮くような心細い身の上でなく安泰な境遇と思ってよいこの世であろうか、と思い続けられました。 |
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| 「橋姫」-37 | 薫と大君、歌の贈答 |
| 薫は硯を取り寄せて姫君達の所に歌を贈られました。
橋姫の心をくみて高瀬さす :姫君達の淋しいお心を察して浅瀬を漕ぐ棹の雫(涙)で袖が濡れました。さぞ物思いに沈んでいらっしゃいましょう: さしかへる宇治の川をさ朝夕の :棹をさし帰る宇治川の渡し守は朝夕雫に袖を濡らしてすっかり朽ちさせていることでしょう。私の袖も涙で朽ち果て涙で身も浮く程です: 薫は感じの良いお方だと大層大君に心ひかれました。 |
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| 「橋姫」-38 | 薫、帰京し大君に文を贈る |
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そして大君に文を恋文めいた風ではなく、筆を選んで見事にお書きになりました。 --始めてのお目通りで失礼かとお話し残した事が沢山あるのも辛う存じます。今後は御簾の前に座ることも気軽にお許し下さいますように。八の宮の山籠りがお済みになりましたらまた伺いましょう-- 寒げであった宿直人にも折り詰めを沢山作らせになりました。 |
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| 「橋姫」-39 | 薫、御寺にも贈り物 |
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山籠もりの僧達には、晩秋の嵐が心細く辛いことであろう、八の宮が籠もっておられる間のお礼に布施(ふせ)をお与えにならねばなるまい、とお察しされました。 その日は宮がお勤が終わって山をお出になる朝であったので、綿・絹・袈裟(けさ)・衣等一揃いずつ全部の僧達にお与えになられました。 *布施 - 僧にほどこし与える物 |
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| 「橋姫」-40 | 宿直人の困惑 |
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宿直人はそのなよやかで、えもいえず良い匂いな狩衣をそのまま身につけていますが、身は変えられぬものなので、会う人ごとに怪しまれたり誉められたりし、かえって身の置き所もない思いなのでした。 気安く振舞うことができず、この匂いを無くしてしまいたいと思いましたが、大層な移り香で洗い捨てることもできませんでした。 --あんまりですこと-- |
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| 「橋姫」-41 | 宇治から薫に返事 |
| 薫は大君のお返事が整っていて大らかなのを趣があるとご覧になり、また八の宮からも色々なお見舞い品が山寺には過分であったお礼が届くと、宇治に伺おうと思われました。
また宇治では女房達が八の宮に薫からのお便りをお目にかけると |
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| 「橋姫」-42 | 薫、匂宮に語る |
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薫が思った通りに匂宮は一途に興味をお持ちになりますので、薫は益々お気持ちが傾くよう次から次へとお話になりました。 「山里の様な人目につかぬ場所に、魅力のありそうな物思わし気な女性が何かといる物の様です。ほのかな月の光で見た顔・形がその通りの器量なら満点と言えましょう。人柄の感じや態度も理想的な女と思うべきでしょう」 |
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| 「橋姫」-43 その1 |
匂宮、姫君達に魅かれる |
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薫は宮のその様子がおかしくて |
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| 「橋姫」-43 その2 |
匂宮、姫君達に魅かれる |
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薫は心の内では、老女・弁の仄めかした話等がいよいよ心を騒がせ悲しいので、美しいと聞く人のことも少しも御心にとまりませんでした。 |
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| 「橋姫」-44 | 薫、再び宇治を訪れる |
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八の宮はお喜びで、山里にふさわしいご馳走などを趣向を凝らしてご用意されました。 日が暮れると大殿油(おおとなぶら)を近く取り寄せて、前々から読みかけになっていた経典の意味深いか所等を、宇治山の阿闍梨にも来てもらって、少しも眠らずに解釈等おさせになりました。 宇治は川風が大変荒々しく、木の葉の散り交う音や水の響き等、ものの哀れも通り越してもの恐ろしく心細い風情でした。 *10月 - 初冬 |
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| 「橋姫」-45 | 八の宮、琴を弾く |
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それは峰の松風が興を添えている為でもありましょう。 宮はいかにも不確かで良く思い出せぬ風をなさって一曲でおやめになりました。 |
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| 「橋姫」-46 | 姫君達、合奏せず |
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姫君達は薫がお耳になさったというだけでも恥ずかしいのに、さぞ聞き苦しいだろうと尻込みなさって、宮が何度かお勧めになってもお弾きにならない様なので薫は残念にお思いでした。 |
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| 「橋姫」-47 | 八の宮、死後を薫に託す |
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八の宮は |
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| 「橋姫」-48 | 弁、薫に語る |
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弁は齢60の少々前ですが優雅な上品な様子で、柏木の君がずっと物思いを重ねて病になり若くしてお亡くなりになられた様子を申して、泣くこと限りありませんでした。 薫は長の年月気がかりで真相を知りたく思い、一体事の始まりはどうだったのかと、仏にもはっきりお教え下さいと念じたおかげで、思いもかけぬ機会に昔語りを耳にしたのであろうかと思うと、涙を押さえられずにおられました。 |
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| 「橋姫」-49 | 柏木の遺言 |
薫が 「こうした容易ならぬ、気恥ずかしく思われる事について、この様に知り伝える人が他にいるのでしょうか」 とおっしゃると 弁は 「小侍従と弁以外には知る者はおりますまい。一言も他人には話しておりません。柏木様がお心にお納めかねてお悩みの時、弁と小侍従を取り次ぎとしてたまの御文通もありました。いよいよご最期の時に少々御遺言がございまして、また、お目にかけるべき物もあります。」 と泣く泣く薫のお生まれになられた時のことも良く思い出しては申しあげました。 |
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| 「橋姫」-50 | 弁の過去 |
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| [橋姫]-51 | 薫、手紙を受け取る |
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弁は、 薫はさりげなくお手紙は隠され、弁が他言はしないと返す返す誓いましたが、老女の昔語りで、話したりしないかとあれこれ悩まれました。 |
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| 「橋姫」-52 | 薫、宇治を去る |
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そして 宮は |
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| 「橋姫」-53 その1 |
薫、手紙を読む |
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中には色々な紙で書かれた女三の宮からのお返事が五・六通ありました。 |
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| 「橋姫」-53-その2 | 薫、手紙を読む |
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命あらばそれとも見まし人知れず
と書きさしの様に、大層筆跡も乱れていて「小侍従の君に」と表に書き付けてありました。 薫は古ぼけて黴臭いが、筆跡は消えないではっきりしているのをご覧になるにつけ、なるほど、人目に触れでもしたら大変なことだったとお思いでした。 |
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| 「橋姫」-54 | 薫、母宮を訪ねる |
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薫が母宮(女三の宮)のお前に参られると、母宮は全く何の心配も無く若々しいご様子で、経を読んでいらっしゃったのを恥ずかしそうにお隠しになられました。 --当時、経文を読む事は女らしくないとされていたので、尼の姿でも恥じたと思われます-- 薫は何で秘密を知ったと母宮にお気づかせ申し上げられよう、等と一切を胸に込めて、あれやこれや考え込んでいらっしゃいました。 |
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