[ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 ]
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[ 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 ]
| 「椎本」-1 | 匂宮、初瀬に詣でる |
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前々からの願(がん)のお礼参りの為でしたが、思いたたれず何年にもなってしまったのを、宇治辺りに途中お泊まりになりたいという気持ちから、お出かけになる気になられたのでしょう。 上達部(かんだちめ)が沢山お供申し上げなさいました。殿上人(てんじょうびと)等はいうまでもなく、後に残る人がほとんど無いほど大勢お供申し上げました。 *上達部 -- 公卿 |
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| 「椎本」-2 | 夕霧右大臣の宇治の別荘 |
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夕霧も匂宮のお帰りのお出迎えに参上なさるおつもりでしたが、急の重い御物忌(ものいみ)でお迎え叶わず、お詫びを言上なさいました。 匂宮は少々興をそがれたお気持ちでしたが、薫がちょうどおいでになられたので、返って気楽で姫君達への橋渡しも薫にしてもらえるだろうと御満足でした。 匂宮は夕霧を打ち解けにくい肩の張る方とお思い申し上げていました。 |
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| 「椎本」-3 | 匂宮、宇治にくつろぐ |
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夕霧の山荘は、お部屋の模様など、それにふさわしい風情のあるしつらいで、碁・双六(すごろく)等してそれぞれが、気ままにその日をお暮らしになりました。 匂宮は珍しい遠出にお疲れになられ、宇治に泊まろうとのお心も強いので、少休憩の後、夕方、御琴など取り寄せてお弾きになられました。 |
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| 「椎本」-4 | 八の宮、楽の音を聞く |
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「横笛をとても見事にお吹きになっている。誰であろう。 等と独り言をおっしゃられました。 |
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| 「椎本」-5 | 八の宮の思い |
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「ああ何とも遠い昔の事になってしまった。かような管絃の遊びもせず、世に在るとも言えぬさまで過ごしてきた年月が多いのはふがい無いことだ」 とおっしゃいました。 が、そうおっしゃいながらも、姫君達のお美しさがもったいなく、 「こんな山中に埋もれさせておきたくない。宰相の君(薫)は姫君達の婿にしたいような人柄であるが、その様に考えるわけにもゆかない様だ、まして近頃の軽薄な男では話にもならない」 とお思い悩まれました。 |
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| 「椎本」-6 | 翌日、八の宮よりお歌 |
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薫は、この好機に山荘にお伺いしたいとお思いでしたが、沢山の人目を避けて一人で舟をこぎ出して川をお渡りになるのも、軽々しい振舞かとためらっていらっしゃる所へ、あちらからお手紙がありました。 |
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| 「椎本」-7 | 匂宮より返歌 |
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山風に霞吹きとく声はあれど
へだてて見ゆるをちの白波 :山風に乗って霞を吹き分けてくる笛の音は聞こえますが、 と草体で美しく書いていらっしゃいました。匂宮はお目当ての所からのお便りでしたので をちこちの汀(みぎわ)に波はへだつとも :波がそちらこちらとお互いを隔てても、それでも 宇治の とお返歌されました。 |
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| 「椎本」-8 | 薫、山荘を訪問 |
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ここは、山荘なりにいかにも風情があり、奥ゆかしいお邸で、簡素で風雅なお部屋のしつらいを、きれいに掃除し整えてありました。 昔から伝わった二つと無い音色の琴等があって、同行の人々が次々とお弾きになり、八の宮は筝(そう)の琴を軽く時々合奏されました。 若い同行の人々は、とても深みがあり素晴らしいと感じいっておりました。 *琴 -- 絃楽器の事 |
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| 「椎本」-9 | 八の宮、歓待 |
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かねてから八の宮にご同情申し上げていたのでしょうか、宮家ゆかりの素性卑しからぬ人々が皆参り集まり、また、お酌する人もこざっぱりとして、こうした宮家らしく古風にいかにも雅趣のあるおもてなしをなさいました。 -- 客人達の中には、姫君達が住んでいらっしゃる所のご様子に心ひかれる人もあったことでしょう -- |
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| 「椎本」-10 | 匂宮、歌を贈る |
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山桜にほふあたりに尋ね来て :山桜の咲き匂う、この宇治にやってきて、同じかざしを折ったことです: *童―少年 |
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| 「椎本」-11 | 中の宮、返歌 |
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かざし折る花のたよりに山がつの :あなたは、かざしの花を折るついでに山人の垣根を と、とても美しく上手にお書きになりました。 |
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| 「椎本」-12 | 匂宮、帰京 |
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帝の仰せにより匂宮のお迎えが参上され、人々は大勢一緒におなりになって、にぎやかに、先を争うようにお帰りになられました。 若い人達は飽き足らない思いで、後を振りかえってばかりいらっしゃり、匂宮は、また良い折をみつけて、と思われました。花の盛りで、四方の霞もとても見所がありました。 |
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| 「椎本」-13 | 匂宮の文に中の君お返事 |
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宮が 「お返事は出しなさい。色めいたお手紙といった扱いはしないようにしよう。色の道にはご熱心な親王(みこ)なので、気になるというだけの御遊び心であろう」 と返事をおすすめになる折々は、中の君がお返事をお書きになりました。 大君はかようの事には冗談にも手を染めようとはなさらない思慮深いお人柄でした。 |
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| 「椎本」-14 | 八の宮、姫君達を思う |
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姫君達が、年と共にますます優れて申し分なくお美しいのも八の宮にはかえって御心苦しく、 「姫君達がそう美しくもないのなら、このまま山里に朽ちさせるのがもったいない・惜しいといった思いは薄くもあろうに」 と日夜お思い悩まれました。 大君は25才、中の君は23才におなりでした。 <貴族の女子の婚期は14・15才。二人は既に婚期を逸しています。さて、いよいよ佳境に> |
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| 「椎本」-15 (その1) |
八の宮、死を思う |
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なんとなく心細く、仏前の勤行を常より熱心になさいました。 この世になんの執着もお持ちでなく、死出の旅へのお支度のことばかりお考えでしたので、極楽往生は間違い無いのですが、姫君達をお案じの余りいよいよお二人を残して行かれるご臨終の時の心はお乱れでしょうと、お仕えする人々は推察申し上げました。 *61才の厄年 |
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| 「椎本」-15 (その2) |
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まれに、落ちぶれた宮家を軽んじる態度で、旅の途中の慰みに気のありそうな文をよこす若者もおりましたが、宮は、なおざりなお返事すらおさせになられませんでした。 そんな中、匂宮はぜひにも姫君を我が物にというお心が深くていらっしゃいました。 |
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| 「椎本」-16 | 薫、昇進し、柏木を想う |
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御自分の出生の秘密がどういう事情であったのかと不安に思い続けてこられた年月よりも、お気の毒な生涯を送られた実父(柏木)の事が思われるにつけて、その父君の罪が軽くおなりになるように勤行(ごんぎょう)をしたい気持ちにおなりでした。 あの老女・弁をけなげな者とお心にかけて、目立たないように何かと人目をつくろいながら、おいたわりなさいました。 |
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| 「椎本」-17 | 薫、7月に宇治を訪れる |
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それは7月頃になっていました。 都にはまだ訪れない秋の気配が、音羽の山近くでは風の音も大変冷ややかで、槙の尾山(まきのをやま)辺りもわずかに色づいており、薫がなおも山路を尋ね来て見ると、風情に富み珍しくお思いでした。 八の宮はなおさらのこと、いつもより薫の訪れをお喜び申され、この度は、心細げなお話をたいそうなさいました。 <八の宮は死を予感している風> *陰暦7月―秋 |
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| 「椎本」-18 | 八の宮、薫に姫君達の後見を依頼 |
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「私が亡くなった後、この姫君達を何かのついででも訪れ、お見捨てにならないものとして心にお留め下さい。」 等とそれとなく申し上げなさるので、薫は 「一言でも受け賜ったからには、決しておろそかには思いません。この世の事に執着をもつまいと、あっさりとしています身で、何事も頼りなく前途が心細意のですが、生きている限りは変わる事の無い私の心ざしを、ご覧になって頂きたいと存じます。」 等と申し上げなさると、八の宮は嬉しくお思いでした。 |
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| 「椎本」-19 | 八の宮の思い出 |
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「近頃の世の中ではどうなっているのでしょうか。 等と世間話にかこつけておっしゃられました。 薫は、そうおぼしめすに違いないと、八の宮の心中をおいたわしく推察されました。 <帝の寵愛を失い、かき鳴らす琴の音にはどんな思いがこめられているのでしょうね。 |
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| 「椎本」-20 | 薫、姫君達に琴を望む |
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「全て心からこの世への執着を捨ててしまったからでしょうか。私自身の事としましては、深く身についた事はございませんが、音楽を愛する心は捨てがたい事でございました」 と申し上げました。 そして、いつぞやほんの少しだけ聞いた姫君達の琴の音をしきりにお望みなさるので、八の宮は、薫と姫君達のお付き合いのきっかけにでもとお思いなされたのでしょうか、琴を弾く様熱心にお勧め申し上げなさいました。 姫君は筝をほんの少しかき鳴らしてお止めになられました。 |
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| 「椎本」-21 | 八の宮、仏間に入る |
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「 われなくて草の庵は荒れぬとも このひとことはかれじとぞ思ふ :私が亡くなってこの草庵が枯れてしまっても、このお約束の一言は枯れることなく、私のお願いは聞き届けて頂けるものと思います: こうしてお目にかかりますこともこの度が最後でしょうかと、心細さに耐えかねてつい愚痴を沢山申し上げてしまいました。 」 と八の宮はお泣きになりました。 薫は 「 いかならむ世にかかれせむ長き世の 契りむすべる草の庵は :どのような世になりましょうとご無沙汰はいたしません。 末永くとお約束を結びました草の庵には: 公事の忙しい時が過ぎましたらお伺いしましょう。 」 |
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| 「椎本」-22 | 薫、弁・姫君達と語る |
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入り方の月が明るくさし込んで薫の透影が優美に映り、姫君達も奥の方においででした。 薫が色めかず、考え深く静かにお話を申し上げなさるので、姫君達もしかるべきお返事等申し上げられました*。 この様に言葉を交わし四季折々の花・紅葉に託して風情や気持ちを通じ合うと、姫君達はなかなか気の利いたお相手なので、よそに嫁がれるような事があればやはり残念に違いなく、薫はもう自分の物という気がするのでした。 *弁を介して |
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| 「椎本」-23 | 薫、帰京。匂宮、中の君とお手紙 |
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そして八の宮の、心細く、これから先も長くないようにお思いであったご様子を思い出し申し上げられ、忙しい時期を過ごしてから伺おうとお思いでした。 匂宮も、秋に紅葉を見に宇治へいらっしゃろうと、良い機会を色々ご思案され、宇治にお手紙は絶えずさしあげなさいました。 中の君は匂宮が本気でいらっしゃるともお思いにならないので、気軽に何気ない態度で時々お手紙をやりとりなさいました。 |
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| 「椎本」-24 | 八の宮、姫君達へ遺言 |
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「死別とは避けられない事ですが、お世話を頼める人もなく心細げな境涯のお二人を見捨ててしまうのは辛いことです。 姫君達は先の事は考えられず、父君に先立たれ申しては片時も生き永らえないとお思いなのに、この様に心細い行末のお話に言いようもなくお嘆きでした。 |
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| 「椎本」-25 | 八の宮、姫君達の行く末を嘆く |
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まことに頼りなくほんの一時の宿として過ごしてこられたお住まいの暮らしなのに、自分が亡くなった後どのようにして若い姫君達が閉じこもってお過ごしになれようか、と涙ぐみお念誦(ねんず)なさる宮のご様子は大層清らかでした。 |
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| 「椎本」-26 | 八の宮、女房達に戒め |
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| 「椎本」-27 | 八の宮、山荘を出る |
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| 「椎本」-28 | 八の宮、山寺で病気 |
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| 「椎本」-29 | 八の宮、山寺に死す |
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| 「椎本」-30 | 姫君達、阿闍梨を恨む |
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姫君達は、阿闍梨の余りにも世事を省みない仏道一筋の気持ちを、憎らしくひどいとお思いになられるのでした。 |
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| 「椎本」-31 | 薫、八の宮の死に悲しむ |
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| 「椎本」-32 | 薫、宇治を弔問 |
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| 「椎本」-33 | 晩秋、姫君達の悲しみ |
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| 「椎本」-34 | 匂宮の弔問 |
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| 「椎本」-35 | 匂宮、忌あけにお手紙 |
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牡鹿鳴く秋の山里いかならむ :牡鹿(おじか)が妻を呼んで悲しげに鳴く秋の 大君は |
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| 「椎本」-36 | 大君、お返事 |
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大君が 「どうしてこれから帰れましょう。 今夜はここに泊まって」 涙のみ霧りふたがれる山里は :涙でくれております霧深いこの山里では、垣根のそばで 薄墨色の紙に筆に任せて書かれ、上包みに包まれて使者に渡されました。 |
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| 「椎本」-37 | 匂宮、熱心に手紙を読む |
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御前(おまえ)でも大層ぬれて参ったので、御褒美の品を賜りました。 匂宮は、今までご覧になられたのとは違う、大人びた・風情のある筆の運びを 「どちらがどちらの筆跡か」 と、下にも置かずご覧になられ、すぐにもお休みになられませんでした。 女房達は 「どれほどご執心のことなのでしょう」 とひそひそ噂して妬み申し上げていました。 |
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| 「椎本」-38 | 早朝、匂宮より文 |
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朝霧に友まどはせる鹿の音を :深い朝霧の中、仲間を見失った鹿の鳴き声を、 大君は、今までは父君の庇護の下、気楽に過ごしてきたけれども、心ならずもこれから生き永らえて不本意な間違いが少しでもあれば、亡き父君の御魂まで傷をおつけ申す事になろうと、何事にもひどく気後れし恐ろしくてお返事申し上げられませんでした。 |
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| 「椎本」-39 | 大君、返事せず |
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| 「椎本」-40 | 薫、宇治へ |
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| 「椎本」-41 | 大君、薫と対面 |
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色かはる浅茅を見ても黒染に :枯れ果てて色の変わった浅茅(あさぢ)を見るにつけても喪服に と、独り言の様におっしゃると 色かはる袖をば露の宿りにて :涙の露は喪服の袖を宿りにしておりますが、 と、とても悲しみに耐えきれないかの様に奥にお入りになられました。 |
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| 「椎本」-42 | 薫、弁と語る |
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弁は、柏木の死や懊悩(おうのう)等世にも珍しい驚くような事もあれこれ見てきた人なので、薫は落ちぶれた老女と扱わず優しくお相手をなさいました。 薫は 「幼い頃に故院(光源氏)に先立たれ申して、とても悲しいものはこの憂き世だと思い知ったので、官位・栄華も何の関心も持てないでいます。 と泣きながらおっしゃいました。 弁はましてひどく泣き、薫のご様子などが亡き柏木そっくりに思われるにつけて昔の柏木の御事まで思いだされ、お返事も申し上げられず涙にくれていました。 *柏木の懊悩 - 薫は柏木と源氏の妻・女三の宮との不義の子 |
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| 「椎本」-43 | 弁の素姓 |
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長年、遠い地方の国をさすらい、後、八の宮邸で引き取ったのでした。奉公ずれがしているが気の利かぬ者ではない、と八の宮はお思いになって姫君達のお世話役風の者にしていらっしゃいました。 弁は、亡き柏木のことは、親しくお思い申し上げている姫君達にも一言もお洩らし申し上げる事も無く胸の中に納めていましたが、薫は、姫君達はとうにお耳に入れられたことであろうと憶測されました。 <<それが、自分の弱みとも困った事とも思われて、姫君達を自分の物にせずにはおくまいという気持ちになるきっかけにもなりそうだ>>> *乳母子 ― 乳母の子供 |
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| 「椎本」-44 | 薫、憂いて帰京 |
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お邸はごく質素になさっていた様ではあるが、こざっぱりと片付けて趣深くお住まいでした。 出入りしている僧達の姿まですっかり見えなくなってしまう時、ここに残って悲しみにくれられる姫君達のお気持ちをお察し申し上げなさると、薫はとても辛くお思いでした。 |
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| 「椎本」-45 | 匂宮の執心、姫君達の心 |
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匂宮は、八の宮が亡くなった今は気兼ねもいるまいとお思いで、心をこめてお手紙をさしあげなさいましたが、姫君達は、ちょっとしたお返事でもお出しにくく気のひける方とお思いでした。 匂宮は世間に大層色好みのお方だという評判で、姫君達は、このようにとても埋もれた田舎屋から差し出したようなお手紙も、どんなに世慣れない時代遅れの物だろう等とふさいでいらっしゃいました。 |
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| 「椎本」-46 | 姫君達の哀しみ |
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と、姫君達が涙の乾く時も無くお過ごしになっているうちに、年も暮れてしまいました。 |
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| 「椎本」-47 | 年の暮、寂しい山荘 |
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向かいの山でも、八の宮が時々お念仏におこもりなさった縁故があったので、人も来、阿闍梨がたまにお見舞いのお便りを申し上げましたが、今は、訪れる人も絶え果ててしまったのも当然のことと思いながら、とても悲しいことでした。 今までは気にも留めなかった木こりがまれにご機嫌伺いにやってくると珍しく思われ、薪、木の実を拾って持って参る者もありました。 |
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| 「椎本」-48 | 阿闍梨より見舞い |
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「父君が御髪などをお下ろしになって、山寺にお篭りになっていらっしゃるようであれば、この様に出入りする人も多いでしょうに。どんなに淋しく心細くてもお会い申し上げる事が無いということはないでしょうに。」 大君 :父君がお亡くなりになって、山寺との道の行き来も無くなってから、 中君 :せめて奥山の松葉に積もる雪とだけでも、父君を思うことができたら。 |
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| 「椎本」-49 | 年末に薫、宇治で大君と対面 |
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大君は直接お話なさることを気のひけることとだけお思いでしたが、お会いしないのは、思いやりに欠ける様に薫がお思いなので、打ち解けるというのではないが、前よりは少し言葉多くおっしゃられました。 その様子は上品で奥ゆかしい感じでした。 薫は、こうした対面だけでではとてもすまされないだろう、という気持ちになられるにつけ、やはりこんなふうに人を好きになると、あっさり変わってしまうものだ、とお思いでした。 <薫は大君への思いによる自分の変化を反省しています。今まで妻帯などを考えませんでしたから。> |
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| 「椎本」-50 | 薫、大君に匂宮の思いを語る |
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「匂宮が妙に私をお恨みされることがございます。 と、とても真面目におっしゃいました。 大君はご自分の事とはお思いにもならず、中君の親のつもりで返事を、とご思案なさるけれども、 「どういうお話なのでしょう。私達に関わりのある事のように仰せ続けになるので、かえってどうお返事申し上げて良いかわかりません」 と、返事に困って笑いに紛らわされるのも、おっとりしているものの好もしい感じに聞こえました。 |
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| 「椎本」-51 | 薫の大君への思い |
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「今の宮のお話は、ご自分の事としてお聞きにならねばならない事とも思いません。 と申されるのですが、お返事もおできになりませんでした。 (大君) 雪ふかき山のかけはし君ならで :雪深い山の懸け橋は あなたの他に踏み通う人はありません: と書いて簾の外にさし出されました。 つららとぢ駒ふみしだく山川を :氷の上を馬が踏みしだいて行く山川を匂宮の案内しながら <薫の匂宮より先に大君と契りをという願い>と薫が申されると、 大君は不愉快になってお答えになりませんでしたが その様子はいかにも好ましくおおらかな気性で、予想にたがわぬ方とお思いでした。 薫は何かにつけて言い寄ってみるけれども、大君はそ知らぬ振りばかりでした。 |
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| 「椎本」-52 | 薫、姫君達に移転をほのめかす |
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と、薫のお供の人々が咳払いをし、帰京をうながしました。 薫は 「どちらを見ても痛々しく感じられるお住まいの様子ですね。 等とおっしゃいました。 それを小耳にはさんで微笑む女房達がいるのを、中の君は 「何とはしたない。どうしてそんなことができましょう。」 とお思いでした。 |
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| 「椎本」-53 | 薫、宿直人に問う |
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あの、薫より拝領した狩衣(かりぎぬ)の移り香で騒がれた宿直人(とのいびと)が、濃い鬚(ひげ)で無愛想な面でいるのを、薫は 「これが姫君達の頼りにされる家来か。情けない番人だ。」 とご覧になって、お召しだしになられました。 「宮が亡くなられてから心細かろうな。」 等と問われると、宿直人は気弱そうに泣き 「身寄りの無い身で、今は何に身を寄せるべきでしょう。」 と申し、いよいよ体裁が悪い事でした。 |
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| 「椎本」-54 | 薫、仏間で八の宮を偲ぶ |
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立ち寄らむ蔭とたのみし椎が本 :出家を果たした際には、我が師と思っていた宮は亡くなられて、 と、薫が柱に寄りかかっておられる姿を、女房達は覗き見しおほめ申しました。 <「椎本」の巻名はこの歌による> |
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| 「椎本」-55 | 薫、帰京 |
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荘園の若者達が大勢がやがやと連れ立って参ったのを、薫は、 「困った、具合の悪い事だ」 とお思いでしたが、老女・弁に会いに来たかのようにとりつくろわれました。 薫は、いつもこの様にお勤めする様命じおかれて、帰京なさいました。 |
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| 「椎本」-56 | 新年に阿闍梨、山菜を贈る |
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宇治の阿闍梨の僧坊から 「雪消えに摘みました」 といって、沢の芹や蕨(わらび)をさしあげ、女房達が、精進料理のお食膳としてお出ししました。 女房達が、 「山里は山里で、こうした草木の変化につけて、移り行く月日の印がわかるのが面白い事です」 と言うのを、姫君達は、 「何の面白い事があろう」 と、お聞きになられました。 |
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| 「椎本」-57 | 薫・匂宮より新年の挨拶 |
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君がをる峰のわらびと見ましかば :これがもし、父君のいらっしゃる峰の蕨であるのなら、 中君 雪深き汀(みぎわ)の小芹(こぜり)誰(た)がために :雪深い沢の小芹も、誰のために摘んで楽しみましょう、 等と、ふと心に浮かぶ事を語らいながら日を送っていらっしゃいました。 薫よりも匂宮よりも折をはずさずにお見舞い申し上げなさいました。 |
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| 「椎本」-58 | 春、匂宮、宇治を懐かしみ歌を贈る |
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その折にお供でご一緒なさった貴公子達が 「とても趣のありました八の宮のお住まいを、二度と見る事も無くなってしまいました」 等と、この世のはかなさを口々に申し上げるので、匂宮はとても行きたくお思いになられるのでした。 つてに見し宿の桜をこの春は :昨年は行きずりに眺めたお邸の桜を *かざしー頭にかざす飾り |
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| 「椎本」-59 | 匂宮、中君の返歌を怨む |
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いづくとか尋ねて折らむ墨染に : 一体どこと尋ね当てて折ろうとされるのでしょう。 と、当り障りの無い御返歌をしておかれました。 こう突き放した冷たいお気持ちばかり見えるので、匂宮は、心底恨めしいとお思い続け、薫に恨み言を言われました。 薫はおかしいと思いながらも、いかにも姫君達の後見人という顔でご意見申され、匂宮は弁解をなさるのでした。 |
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| 「椎本」-60 | 匂宮、夕霧の六の君に関心わかず |
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そうはいっても、匂宮は 「六の君とは余りにも近い間柄であるだけでなく、右大臣が、やかましく煙たいお人柄なので、どんな些細な浮気でもとがめられそうでかなわない。」 と、蔭ではおっしゃって抵抗していらっしゃいました。 * 六の君と匂宮は、いとこ。 |
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| 「椎本」-61 | 三条の宮焼け、薫、宇治に遠のく |
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薫は何かと忙しさに紛れて、宇治あたりを久しくご訪問申し上げられませんでした。 生真面目な薫のお心は、他の人とは全く違っているので、至極のんびり構えて、大君がいずれ自分の妻になる人だとは信じていながら、大君のお気持ちが解けないうちは、ふざけた失礼な態度は見せまいと思い、 「八の宮とのお約束をいつまでも忘れていないということを深く知ってほしい」 とお考えでした。 |
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| 「椎本」-62 | 夏、薫、宇治で姫君達の姿をのぞき見 |
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八の宮がいらっしゃった西の廂(ひさし)の間に宿直人(とのいびと)を、お召し出しになられました。 母屋(もや)の仏様の御前に姫君達はおいででしたが、近すぎないようにとご自分達のお部屋へお移りになられました。 その身じろぎなさる気配が近々と聞こえるので、薫はじっとしていられず、障子の端に戸締りの掛け金をしてある所に穴が少し空いているのをご存知だったので、障子の外に立ててある屏風を動かして、お覗きになられました。 ちょうど穴の空いている所に、き帳(きちょう)が立ててあり 「ああ、残念」 と思って、身を引こうとするその時、風が簾を高く吹き上げるらしく、そのき帳を目隠しにと女房が片付けてしまいました。 薫はまぬけなことをすると思いながらも嬉しく、中をご覧になると、姫君達はあちらの居間に行こうとするところでした。 |
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| 「椎本」-63 | 中の君の姿 |
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中の宮は、すらりとした姿の美しい人で、髪は末まで一筋の乱れも無く、つやつやと沢山あって可憐な風情でした。 横顔などの愛らしく色艶が良くて、もの柔らかでおっとりとした感じは、女一の宮(おんないちのみや)もこのように美しいのだろうと、薫は、以前ちらりと拝見したお姿を思い出され、つい嘆息されました。 * き帳 − 室内の隔てに用いる絹の帳を垂らした障壁具 |
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| 「椎本」-64 | 大君の姿 |
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「あの障子は、外から覗かれそうで心配です。」 とこちらをご覧になったお心配りは、たしなみ深く考え深そうにみえました。 頭の形、髪の生え際など、中の君より一段と高貴で優雅な感じで、中の君と同じ様な色合いの黒い袷(あわせ)の喪服をお召しになっているが、大君は優しく優雅な感じで哀れをそそられ胸をしめつけられる様でした。 髪はすっきりした程度に抜け落ちたのであろう、末が少し細くなって、翡翠(かわせみ)の青葉のような色合いでとても美しく、より糸を垂らしたようにみえました。 紫の紙に書いた経を、片手に持っていらっしゃる手つきは、中の君よりも細くずいぶん痩せているようでした。 簾際に立っていた中の君も、何がおかしいのか、こちらを向いて笑っているのが、とても可愛らしい。 |
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